Kind's room

アニメの感想、考察など。

『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』考察 -久石奏はあのとき何が言いたかったのか-

映画館に進んで足を運ぶオタクではないため、公開3週目まで渋っていたが、そろそろツイッターにネタバレが出始める時期かなとも思ったので、先日『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』を観に行った。

結論、もっと早く観ていれば良かった。

TVシリーズ2期の頃の「ユーフォ熱」がまんまと戻ってきて、昨日3回目の鑑賞を終えた。その熱が冷めないうちに今こうして筆を執っている次第である。

(※)以下、劇場版の感想とか私的考察とか久石奏や夏紀先輩の可愛さについてのネタバレあり。

(※)原作未読。

 

 

 

「優しいんですね」

久美子のユーフォニアムの演奏に惹かれるようにして吹部の準備室に行きついた新入生・久石奏。引き戸を隔てて久美子と会話していた際に言い放った1回目の「優しいんですね」には、どんな意味が込められていたのだろうか。久美子と奏の間にある引き戸を境界線に見立てた演出から「(私に)踏み込んでこないんですね」と言っているような、そんな意味合いがまず感じ取れた。中学時代の話を踏み込まれては、私の人間性まで知られてはいろいろと困る。でもこの人は安全圏に留まる。一歩引いて上手く立ち回って敵を作ろうとはしない。ただ、気になるのはこの台詞はあすかの話題が絡んできた際に発していたので、もしかしたら別の意図があったのかもしれない。

そして何より、黄前先輩は私以上の実力を備えている。この人の下にさえついていれば、私は中学の時のような苦い想いをすることはない。下手な先輩は存在自体が罪だが、黄前先輩は私より年上で私より上手い。しかも安全圏に留まって敵を作ろうとしないタイプで、その処世術は私の目指すものでもある。この人なら信じられる。

しかし、求への「月永くん」呼びや美玲の「みっちゃん」拒否で一悶着があった後の、2回目の「優しいんですね」はかなりニュアンスが違うように思えた。ここは一悶着をくだらないと発言した奏へ「くだらないことはない」と久美子が返したことに対しての台詞だったが、それは若干拗ねながらだった。ここは単に自分の意見が跳ね除けられたことに対する不満を、皮肉を込めて言ったように思えた。

美玲orさつきのどっちが好きか、という問いに公平な回答をした久美子に対して「その答えはズルくないですかぁ?」と言ったのは、内心は美玲側のくせにと確信していたからだろう。久美子先輩は私サイドの人間だと思っていたから。その後に「久美子先輩はお心が広い」と言ったのは、美玲&さつきの両方を支持することで敵を作らないようにしていると感じたからではないだろうか。加えて「久美子先輩は本当に尊敬できる方」と言ったのも本心なのだろう。この人は私と同じだと思っていたから。

 

「いいですよ、美玲がいいならそれで」

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予告編より

サンフェス直前で突然やめると言い出した美玲。美玲は吹奏楽に対して非常に真剣なため、ふわふわしている葉月やさつきが許せなかった。あと、さつきが他の女と親しくしてるのも許せなかった!そういえば、入部当初、教室での質問のシーンでも、奏は美玲の「コンクールメンバーはオーディションで選ばれるって本当ですか?」という言葉を完全に翻訳していた。なぜ奏は美玲の心情を読み取れたのだろうか。それは、美玲に中学時代の自分を投影していたからだ。

実力はあっても居場所はない。頑張っているのに評価されない。それは過去の自分を見ているようだったのではないか。このままでは美玲が不幸な目に遭うのは目に視えている。だから、奏は実力のある美玲を守りたかったのだろう。ただやり方がサークラっぽかったぞ久石奏!

 

「正直ホッとした」

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予告編より

さてさて劇場版の重要人物の一人、加部ちゃん先輩(かわいい)である。顎関節症により奏者を辞退することになった(※)が、その後の久美子との会話では、悔しさを露わにするというよりは、「そんなにショックじゃない」などの冷静な言葉を発していた。こんなに練習して結果が出なかったらどうしよう、上手くいかなくて後悔したらどうしよう、といったオーディション前のプレッシャーから解放されたという意味での言葉だと最初は思った。でも、2回目の鑑賞で少し印象が変わった。コンクールの課題曲が発表されるシーンで、彼女はすでに不穏な表情を見せ始めていたのである。それは「ホッとした」人が見せる表情には到底思えなかった。彼女は本当に「本音」を語っていたのだろうか...

というか、これだけスポットの当てられた人物にも関わらず、クレジットでは「吹奏楽部員」表記だったのなんでだろう。求より目立ってただろ。

 (※)これも2回目の鑑賞で気づいたが、序盤の滝先生の「漫然と吹いてはいけません~」のシーンで顎に違和感を抱いている描写も確認できた。

 

「なかなか策士ですね」

 この映画を複数回見る意味が最も含まれた台詞だと個人的には思う。低音パートの練習シーンで、パート分けは久美子が上の部分を一人で、夏紀と奏が下を二人で、という風に決まった際に言い放った謎の"策士"発言。そもそも夏紀に対してなのか久美子に対してなのか微妙だったが、恐らく久美子に対してだったのだろう。

後の黄前相談所inサイゼリヤや、無気力オーディション事件からこの台詞を遡ると、しっくりくるものがあった。奏は自分が夏紀より上手いことを自覚していた。久美子先輩もきっと同じことを思っている。だから、該当シーンでは「夏紀が奏と組んで演奏する」=「夏紀の音(技術)を浮かせない」という風に解釈し、自然にこの組み合わせを提案した久美子を"策士"と評したのではないだろうか。ただ、久美子はそんな意図を込めてはいなかったので、この"策士"発言は奏の見当違いであった。

場面は移ってサイゼリヤのシーンで、久美子に「夏紀先輩は奏ちゃんの方が上手いって認めてるんだよ」と言われた際に「困ります」と言ってしまう。なぜ困るのか。それは、自分の思った通りに事が運ばなくなるからだろう。

夏紀は自分より上手い後輩に教えを請うている。夏紀は自身の実力が劣っていると認めたうえで、上手くなろうとしている。年功序列ではなく実力至上主義であると、夏紀自身が感じている。ということは、自分がオーディションの際に企てている、先輩に道を譲るための無気力計画は、そもそも先輩後輩の考え方を持っていない夏紀に対しては、なんの意味もなさない。これが「困ります」の真意ではないだろうか。

もっとも去年のオーディションの際、みんなが高坂先輩に吹いて欲しいと言ったわけではないのも紛れもない事実。結局、私の思った通りだった。

 

「なんですか先輩2人がかりで。リンチですか?」

そして例の無気力オーディション事件である。仮に、夏紀先輩本人が学年云々を気にしていなくても、周りが気にしていない保証はない。だから奏は、自分の身を守るためにわざと夏紀に道を譲る選択をする。奏と麗奈が決定的に違うのは「ここ」なのだろう。

 

「頑張るって何ですか?」

 奇しくも奏と久美子は中学時代、同じような経験をしていた。だから奏の気持ちは痛いほど分かってしまうし、敵を作りたくない気持ちも確かにあるのだろう。

しかし久美子は加部ちゃん先輩から想いを託されていた。 こんなに練習して結果が出なかったらどうしよう、上手くいかなくて後悔したらどうしよう、ということすら加部ちゃん先輩はもう考えられない。その無念を知っているからこそ、奏には余計に挑戦して欲しかったのだろう。頑張っても何にもならないかもしれないが、頑張ったその先にきっと何かがあるから。

 

「やったじゃん」

そして今年もオーディション、その特有の緊張感はさすがに、1年間を2クールで描いたTVアニメ版よりは劣ったが、夏紀先輩が呼ばれた瞬間はすごく高ぶった。

そして加藤葉月。秀一には振られ、後輩にはキレられ、そして今年もコンクールに落とされて相変わらず不憫な役しか回ってこない。みんな葉月に何の恨みがあるってんだ...

ただ、サンフェスの時といいオーディションで美玲が選ばれた時の「やったじゃん」といい、何気にこの映画で一番好感度が上がった人物かもしれない。

 

京都府立北宇治高等学校、ゴールド金賞」

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予告編より

尺の都合上、京都府大会をすっ飛ばしての関西大会本番。本番前、舞台裏での夏紀先輩の久美子にかけた台詞は本当に良かった。やっぱこの人が一番好き...

演奏シーンに関してはやはり映画館の音響で聴くのは別格だなと。内容は1クール以上かけてじっくり見たい、でも演奏は映画館の音響で聴きたい、という贅沢な葛藤に悩まされる。

結果は知っての通り。というか案外「金」いっぱいあるんだな。優子部長の演説は、1期のクソレズデカリボン時代からは想像もできない頼もしさがあったし、美玲の「来年は一緒に吹きましょう」のシーンはこの映画で最も涙腺にきたかもしれない。

 

「悔しくて死にそうです」

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予告編より

先ほど奏と麗奈が決定的に違うと言ったが、関西大会終了後には、すでに奏には麗奈と同じ魂が宿っていた。頑張っても何にもならなかったとは言いつつも、頑張ったその先にあるものを彼女なりに見つけたのだろう。

1年生の流した悔し涙に今後の北宇治の安泰を感じる、そんなシーンであった。

 

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実はユーフォの新作劇場版が発表されてから公開されるまでの間、ずっと心待ちにしていたというわけではない。原作を追っているわけではないし、TVシリーズ2期から2年半近く経っているため、当時の「ユーフォ熱」はほぼ残っていなかった。ただ、アニメ2期の圧倒的なまでの面白さを思い返し、当時の作品に対する熱を取り戻すには、あまりにも十分な100分間だった。

随所にちりばめられた細かいネタや伏線・演出など、毎回新しい発見ができるのもユーフォならでは。当初は映画見るだけの予定でこの記事も書く予定はなかったのだが、やはりこの作品は語りたくなる魅力があるのだなと改めて実感。ただ、複数回見ても未だに演出の意図が読めないシーンも何個かあったりするので、マジで巻き戻ししながら何回も見たい。早く円盤出して欲しい。

まぁ今はこの「ユーフォ熱」が冷めないうちに、1期からアニメを見返すことにしようと思う。今期あんまり見るのないしな!

 

最後に、Twitterに「#細かすぎて伝わらない誓いのフィナーレ見所」という面白いタグがあったので、それに便乗して個人的な「可愛すぎて直視できない誓いのフィナーレ見所」を発表してこの記事を締めたい。

 

銅賞  「ぐはぁ、マジかぁ~」を連発する夏紀先輩

ハッピーアイスクリームのシーン。脱力感ある声のトーンが可愛い。

 

銀賞  優子に恥ずかしいセリフを言われて赤面する夏紀先輩

関西大会本番前のシーン。完全に不意を突かれたことで拝めた貴重な照れ顔。

 

金賞  久美子にコツンとされて100点満点のスマイルを浮かべる久石奏

他の女子に秀一との会話権を取られた久美子を小馬鹿にして小突かれたシーン。いたずら可愛い笑顔にゴールド金賞。