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『劇場版ハイスクール・フリート』感想~はいふりの「航路」を信じられる120分~

『劇場版ハイスクール・フリート』が航海、もとい公開された。

率直な感想として、期待以上の出来だった(もとより期待値はそんなに高くはなかったけど)。制作側の「やりたいこと」を尺ギリギリまで詰め込んだんだろうなと感じさせる内容で、求めていた『はいふり』が2時間にわたって繰り広げられた。何より、あれだけキャラクターが大所帯のなかでも、ちゃんと皆にスポットが当たっていたのが嬉しかった。

公開1週目で2回鑑賞し、他のはいふりオタクたちの感想とか読んでるうちに語りたい欲が出てきたので、遅ればせながらではあるが、劇場版の個人的な見どころと感想を書いていく。

 

 

(※)以下、『劇場版ハイスクール・フリート』に関するネタバレあり。

 

 


歓迎祭とかいう実質赤道祭

不穏なBGMと緊張感ある艦橋メンバーの表情とは裏腹に、呉・舞鶴佐世保への盛大な歓迎シーンから映画は始まった。この茶番から入るところが如何にも『はいふり』っぽい。

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この予告編から前半は大体日常パートなんだろうってのは予想していた。でもまさか、一番初めに喋り始めるのが若狭麗緒と駿河留奈とは思わなかった。しかも「ちょっと小耳に挟んだんだけどさ~」とかいうTVシリーズですらろくに回収されなかった若狭麗緒の噂好き設定を出してくるとか、いきなりニッチすぎるだろ。

岬明乃と宗谷ましろが歓迎祭の出し物を視察しているなか、現れたのは武蔵艦長の知名もえか。もえかを見つけて明乃が飛んでいくなか、ましろがもえかに対して控えめに礼してるのがなんかいい。同じ学校に通う同級生でも、乗ってる船が違えば、会社の部署が違うぐらいの距離感なんだろうなと感じさせる。

僕がはいふりで一番好きな女の子、ヴィルヘルミーナ(以下略)ちゃんの初監督作品『仁義ある晴風』の上映。晴風の出し物に当たり前のようにシュペー組が参加してるあたりに、彼女たちも晴風メンバーと航海をともにした“家族”なんだな~と感じられて良い。『仁義ある晴風』本編では納沙幸子とテア艦長がバーで口論(?)を交わすシーンがあったけど、これ実質ミーナちゃんの正妻争いのメタファーじゃん…。OVA前編での睨みつける視線といい、テア艦長は納沙のことをかなり敵視してると思う(思いたい)。

仁義あるシリーズとともに、TVシリーズの赤道祭の系譜を引き継いだのがメイタマの漫才。これに関しては前の五十音のヤツの方が面白かった。いやまあ、「かつ丼でも食うか?」「カレー」のくだりはちょっと笑ったけど。

 

競闘遊戯会とかいう実質赤道祭

学校対抗の障害物レース。解説役の納沙が晴風の戦い方を見て「回避に専念しすぎて本来の目的を見失ってますね」と言ってて、この台詞が映画本編のストーリーの示唆なのでは?とオタク特有の深読みしていたが、それっぽい内容は特に出てこなかった。

チャンバラ大会。こういう肉弾戦のときにまず活躍するのは野間マチコと万里小路楓。人間業を超越したチャンバラアクションに、ニックネームが“しゅうちゃん”なのに名前は“ひでこ”なのがややこしすぎる山下秀子も思わず開眼。ココvsミーナの注目の対戦もあったが、こういう場面では普通の女の子になっちゃう納沙かわいい。そして一番笑ったのが、落水アウトルールを聞いてからチャンバラを捨てて相撲を取り始めた黒木洋美。岬明乃を倒すためだけに開催された出来レースの赤道祭相撲トーナメントといい、お前そういうとこだぞ。

図上演習。ルールがイマイチよく分からなくてピンチ!


ミケシロとスーザン・レジェス

歓迎祭の途中で古庄教官(美人)に呼び出された明乃とましろ。そこでましろに比叡の艦長の話が出る。図上演習で大和艦長・宮里十海に言われたように、ましろの実力は艦長クラス。宗谷家の生まれであることからも、艦長になりたい思いは人一倍強かったはずだ。そんななかで舞い込んできた話だったが、それは同時に晴風から離れることを意味していた。ましろの思いを汲んであげたい明乃、晴風への思いと艦長へのチャンスに葛藤するましろ

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「劇場版 ハイスクール・フリート」本予告より

そんな二人の間を取り持ったのが、今回の映画の重要人物である謎の少女スーザン・レジェス(名前がサッカー選手っぽい)。どこか気まずそうな二人を見て「昼はもっと仲良しだった」と指摘したり、悩むましろに対して「ここ(横須賀女子海洋学校)に何をしにきた?」「シロは何がしたい?」と結構厳しめのアプローチで助言をする。ちょっと観察眼優れすぎじゃない?

あとスーちゃんが焚火をして怒られたシーン。明乃が一緒にテント泊をすると言い出した際に、真っ先に反対すると思っていたましろが、さりげなく「3人分」の毛布を用意して一緒に寝たのがいい意味で意外だった。TVシリーズのときと比べてだいぶ物腰が柔らかくなった印象を受けた。


ハイスクール・フリート』の幕開け

奇しくも晴風対決となった図上演習決勝で、ましろの勝利がほぼ確定していたさなか、海上要塞とプラントがテロリストに占拠との一報で試合は中断。さっきまで漫才とかチャンバラとかやっていた『はいふり』とは打って変わって、国家ぐるみの大ピンチに立ち向かう『ハイスクール・フリート』が幕を開けた。

この辺りから知名もえかが有能っぷりを存分に発揮。TVシリーズでは見せ場らしい見せ場はなく、立ち位置的に救われるだけのお姫様だったのが、今回の映画では武蔵艦長として、上級生を含めた全ての学生艦を統率。途中で宗谷真霜さんが言ってた、もえかのお母さんの話も気になったが特に言及されることはなかった。これは続編フラグ。

晴風出航前のシーンで、五十六をどかして艦長の帽子を手に取ったましろは、それを明乃に手渡す。託された明乃が「シロちゃん」ではなく「副長…‼」って言うのがアツかった。

アツいシーンで言えば、シュペーが応援に駆けつけて納沙とミーナちゃんが口パクで会話するところや、大和・信濃紀伊も駆けつけて各艦長が「出航よーい!」って同時に言うところ。自分たちのピンチに他校の仲間が続々と駆けつける展開は『劇場版ガールズ&パンツァー』を彷彿とさせてめっちゃ昂った。

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「劇場版 ハイスクール・フリート」本予告より

作戦決行前、依然悩んでいたましろに対し、夜食を持ってきた黒木洋美が「何か悩んでるなら私に相談して」と耳打ち。めっちゃいい奴…なんだけど、前述したましろとスーちゃんの会話を草むらから盗み聞きしてたのはどうかと思ったぞ。

宗谷真霜、真冬さんたちによる作戦会議。何気に宗谷家総動員でこのピンチに立ち向かってるのがアツい。人質の救出が最優先だが、要塞を止める手段は問わない。つまり人質さえ救出すればあとは何してもよいという発想になる真霜さん、実は一番怒らせちゃいけないタイプの人だった。あとこのシーンで海洋地図上に『HIGH SCHOOL FLEET』と表示されてたのが地味に良かった。英語表記にすると急にカッコよくなるのズルいな。


宗谷真冬艦隊のプラント潜入シーン

個人的に劇場版の一番の見どころはここだと思ってる。やんちゃ集団「弁天」の威勢の良いウス!!!の掛け声で潜入作戦が始まったかと思えば、はいふりでは聴いたこともないカッコいいBGMとともに、熟練された技術で海賊の見張りを次々と蹴散らしていく。

極めつけは身体能力が人間をやめている真冬さんの根性注入で敵リーダーを成敗。このテンポの良い制圧劇と、はいふり世界に介入してくる男どもを容赦なくボッコボコにする爽快な展開が気持ちよかった。


作画が崩れてピンチ!

ここまで引きの絵以外は安定した綺麗な作画だったが、晴風が要塞に突入する直前の、一番盛り上がるシーンを前にして崩れ始める。具体的には明乃の「私たちがやれるなら…」のとこ。

正直あそこまでキャラクターの作画が崩れると、肝心の内容が頭に入ってこなくなるのでなんとか踏ん張って欲しかった。前日に『劇場版メイドインアビス』の超作画を体験していたせいで余計に残念な印象を抱いてしまった(ツイてない…)。まあ、崩れると分かってから挑んだ2回目はそこまで気にならなかったのでハッピー!

でもさすがに、納沙幸子のトレードマークであるカーディガンが2カットぐらい脱げていたのは早急に直して欲しい。


ドンピシャーーー!!!

晴風が要塞に突入するには、要塞から放たれる砲撃を交わさなければならない。そこで、もえかは染色弾で晴風の航路を示し、明乃もこれを信じて突貫。二人の信頼関係が育んできた連係で、晴風は要塞への突入を果たした。ここでの決め台詞が「ドンピシャーーー!!!」なのがなんか可愛い。

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「劇場版 ハイスクール・フリート」本予告より

要塞突入後もピンチは続いたが、まりこうじさんが耳で機械音を聞き分け、タマ(?)が破壊していく咄嗟の連携で砲台を次々と破壊。あと、なんかドラム缶みたいなやつをタマが撃って命中させたシーンはカッコよかった。

要塞の中央部が柱で守られていれば、美波さんのセグウェイに魚雷を積んで移動式爆弾にして中央部を爆破したり、出口が塞がっていれば、ましろがかつての明乃のようにスキッパーで飛び出して一か八かの賭けに出たりなど、晴風メンバーの個性を活かした、晴風メンバーでなければ成しえない突貫&脱出劇が爽快極まりなかった。『High Free Spirits』流れたときなんてマジで鳥肌立ちまくった。


『劇場版 ハイスクール・フリート

最大のピンチを跳ね除け、事件は解決。ましろの決断には一瞬「え?」となったが、最終的にはホッとした。ましろ晴風が大好きだし、何より『家族』は一緒に居るのが一番。

それはそうと、ましろがスキッパーから脱出したときも受け止められず、脱出した後に泣きながら抱き着きにいっても麻侖に邪魔され、最後の最後まで報われなかった黒木洋美はますます好感度が上がってしまった。結局ましろに耳打ちした件についても何も相談されてないしな…

そしてED曲『Free Turn』が流れ、劇場版ハイスクール・フリートは幕を閉じた。何気にED映像がめっちゃいい。あれだけ見るために何回も足を運びたくなる。

 

 

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素晴らしかった。見たかった『はいふり』を見せてくれた。4年近く追い続けてきたコンテンツが、最高のストーリーで映画になった。この満足感は他の何にも代えがたい。来場特典があることを差し引いても、何回でも観に行きたくなってしまう傑作だった。はいふりを信じてきて本当に良かった。

不満があるとすれば、先ほど言及した作画面に加えて、歓迎祭をもっと見せて欲しかったというのが個人的なところ(特に仁義ある映画)。ココミーナの直接的な絡みが少なかったり、宇田慧と八木鶫の出番が露骨に減ってたのは、恐らくOVAで活躍していたからだと思うので仕方ない。

あとは、もえかの母親やスーちゃんの父親に関する伏線が結局回収されてないので、この辺りは何かしらの媒体で発信されることを期待しておこう。

今回の映画で思ったのは、はいふりは「続きを作ろうと思えばまだまだ作れるんだ」ということ。今回の内容だって、歓迎祭や競闘遊戯会の間に起こったほんの一幕に過ぎないわけで、TVシリーズみたいに長期間に渡って漂流させなくても、危機(ピンチ)はやってくるんだなという謎の安心感が生まれた。

最後にAnimeRecorderさんの、はいふり原案・鈴木貴昭氏インタビュー記事を紹介。はいふりTVシリーズから劇場版に至るまでの航路はもちろん、他のメディアなら絶対突っ込まないであろう「赤道祭」や「はいふりカメラ」の話も掲載されていて読み応え十分。何より、今後のコンテンツ展開についても言及されているので、我々はいふりのオタクとしては、継続的にはいふりを応援して、はいふりの「未来」という名の航路を進んでいきたい。

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航海はまだ、始まったばかりだ。

10年目も、そして100年目も、はいふりの「航路(みらい)」を信じて...