Kind's room

アニメの感想、考察など。

『Vivy』6話を見たあとでいろいろ考える

ヴィヴィとマツモトとの出会い&議員救出(1~2話)から15年後にサンライズ落下事件(3~4話)が発生、その5年後に、今回のミッションであるメタルフロートの停止が行われた。

今回の目的は、AIの発展が正史よりも加速しているため、その原因であるメタルフロートの機能を完全に停止させること。前回は反AI組織・トァクのメンバーが島に乗り込んできたのをAIたちが迎撃し、主犯格である垣谷らをヴィヴィが助けるところまでが描かれた。

 

  • 「これが歌に聴こえますか?」

f:id:buckingham0120:20210502100117j:plain

サンライズの事件でエステラが活躍し、世間は彼女と同型であるシスターズに期待を寄せるようになった。そこでAIの発展を加速させるメタルフロートが建設され、その管理はシスターズの者が担うことに。そこで白羽の矢が立ったのが、シスターズのなかでもひときわ優秀だった、冴木博士のパートナーであるグレイス。この巨大なメタルフロート自体が、グレイスによって成り立っていた。

グレイスは実質生贄として島に取り込まれてからずっと、大好きだったディーヴァ(ヴィヴィ)の歌を、冴木博士との思い出の曲だったあの歌を歌っていた。それはつまり、看護AIのときの自我がまだ微かに存在しているということ。同時に、冴木博士は彼女からのSOSであると捉えていた。

自分の後継機、つまり妹であるグレイスを助けたいと心が揺らぐヴィヴィであったが、そこでマツモトは「あなたには、これが歌に聴こえますか?」と問う。少し考えて、ヴィヴィは「そうね、これは歌じゃない(中略)ただの音階データだわ」と答えた。少し突き放すようなこの台詞だが、これは彼女の本心ではないように感じた。

ここでメタルフロート、つまりグレイスを停止(AIの過剰発展を阻止)させなければ、80年後にAIは人類を滅ぼす。もっとも、グレイスの本来の使命は「人の命を助けること」であり、ここで彼女を助けることは、(将来的に)人々の命が助からなくなることを意味する。

 

f:id:buckingham0120:20210502100228j:plain

グレイスの使命である「人の命を助けること」を遂行するには、グレイスを破壊する必要があった。そこで、ヴィヴィはグレイスの使命を受け継ごうと考え、破壊を決心したたのではないか。今から破壊するのは「まだ懸命に歌い続けているグレイス」ではなく、「音階データが再生されているだけのメタルフロートのコア」だと、自分に言い聞かせるために、「ただの音階データだわ」と答えたのではないか。

 

  • 「君の歌がグレイスだった」

f:id:buckingham0120:20210502100253j:plain

冴木博士がグレイスのいるコアの場所を教えたことで、ヴィヴィはグレイスに辿り着いて破壊。メタルフロートの機能は完全に停止し、今回のミッションは成功した。

その後、グレイスと冴木博士が結婚式を挙げるはずだった島の教会で、冴木博士は自ら命を絶った。

直前、ヴィヴィは「こんなこと言う資格は私にはありません、ですがどうか、幸せになってください」と言ったが、冴木博士は「君にとって、歌で人を幸せにするという使命に、何か"代わり"はあるのかい?」「僕にとっては、君の歌が、グレイスだった」と告げた。

ヴィヴィの使命に"代わり"なんて存在しないように、冴木博士にとってグレイスの"代わり"なんて存在しない。そういう意味での「僕にとっては、君の歌("代わり"がきかない存在)が、グレイスだった」だと解釈した。ヴィヴィの「幸せになってください」という願いは、今後絶対に叶うことはないと分かっていたから、あの結末を選んだのだろう。

皮肉にも、「人の命を助けること」というグレイスの使命を受け継いだヴィヴィは、グレイスを誰よりも想っていた冴木博士を助けることはできなかった。それを象徴する「青」と「赤」の血が、あまりにも鮮烈だった。

 

ーーーーーーーー

 

もし正史通りにサンライズが落ちていればAI衰退の流れになり、メタルフロートなど造られず、グレイスが島の生贄になることも、冴木博士が自ら命を絶つこともなかった。100年後(あと80年後)の破滅を阻止するための行動により、どこかで誰かの歯車を狂わせるのが、どこまでも理屈的であり理不尽である。そう思わせた6話であった。

冴木博士が最期に告げた「君にとって、歌で人を幸せにするという使命に、何か"代わり"はあるのかい?」について。初見時は、「何か"変わり"はあるのかい?」だと思っていたが、この台詞の真意について考えるうちに、"代わり"の方が文脈的には正しいのではないかという結論に至った。

今後の展開として気になるのは、ヴィヴィの使命が変わるのではないかということ。グレイスは看護AIとしての「人の命を助けること」から、生贄としての「メタルフロートを存続させること」へ、使命の書き換えが行われた。これは、歌姫(ディーヴァ)として「歌で人を幸せにすること」と、AIを滅ぼすAI(ヴィヴィ)として「人類の滅亡を阻止すること」という、二つの使命を両立している彼女の現状にも少し当てはまる。実際、ディーヴァとして人々を幸せにしている描写は案外少ないため、もしかすると彼女も使命が書き換わってしまうのでは......と思ったり。

 

Vivy -Fluorite Eye's Song- 、展開が論理的かつ緻密に組み立てられていて見応えがある。今期最も真剣になれているアニメだし、2021年屈指の名作になることを期待して残りの話も楽しもう。———それが、アニメオタクとしての使命。